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白熱するメガネ戦国時代に新たな一手!ビジョンメガネの新業態店舗「eyevory」の狙いとは。

企画から製造、販売まで自社で管理するSPA(製造小売り)をビジネスモデルとするZoffやJINSの登場以来、メガネ業界各社のシェア争いは白熱の一途を辿っています。5000円・7000円・9000円で展開された破格の「スリープライス」商法で業界を揺るがし、「メガネは高い」というイメージを払拭した新興SPA勢力が一大ブームを作り上げるも、市場規模は平成26年以降大きな変動がありません。消費は一巡した印象を見せます。少子化、コンタクトやレーシックの普及などにより国内市場が縮小しているものの、メガネが視力矯正器具としての役割だけでなくファッション小物の一部として市民権を得つつある今、消費者ニーズをいかに掘り起こすか、そしてどのように新たな付加価値を提案していくかが各社の課題です。そのような中、大阪に本社を構える株式会社ビジョンメガネが新たな一手を投じました。新業態店舗「eyevory」の登場です。従来のイメージを覆す、まるでカフェのような出で立ちの店舗は、ウッド調でスタイリッシュなこだわりにあふれた空間です。
ミセナカジャーナル編集部は2017年3月で1周年を迎えた1号店に訪問し、そのコンセプトや試みについて株式会社ビジョンメガネ商品部の平野さんと、ストアマネージャーの渡部さんにお話を伺いました。
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「入りにくい」を解消し、カフェのように気軽に立ち寄れる新しいメガネ店に。
「見えるが変わるだけじゃない、見た目が変わる」をコンセプトとした「eyevoryくずは」は2016年3月、大阪府枚方市にオープンしました。1号店となる同店に課せられたミッションは、これまで同社が課題と感じていた「理由がなくては入りにくい閉鎖的な印象」を払拭すること。アパレルショップ感覚で来店してもらい、より多くのユーザーとメガネとの出会いをデザインをすることが目的です。
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まるでカフェのような空間で店内を回遊していると「どうぞごゆっくりご覧ください」という店員の声かけとともに手渡されるのは無料のコーヒーサービス。メガネ店でコーヒーが出されることに驚きますが、さらに金沢の焙煎家と共同開発をしたオリジナルブレンドというクオリティにコンセプトの深さを感じさせられます。店内設置のファッション誌には、店内で取り扱われている商品にマークが付けられています。カウンター席に座り、おいしいコーヒーを飲みながら雑誌をめくりつつ、気になったものを実際試着してみる…そんな新しいメガネの選び方を演出しています。
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あえて個性的なものを。「ストーリーのあるものだけを売る」というこだわり。
取り扱う商品は、すべてストアマネージャーである渡部さんがセレクトしたこだわりの製品ばかり。「その選択基準は職人の思いやストーリーを含めて、自信を持ってお客さまにおすすめできるかどうかだ」と語ります。美しくディスプレイされた陳列棚には、ブランドからのメッセージに加えてスタッフ手書きのおすすめポイントが添えられており、商品への思いと自信が伺えます。手軽な量産品とは一線を画し、作り手の思いに触れられる高品質な商品であるほど、ユーザーの製品への思い入れは強くなり、購買への満足度もあがるという考えから、接客時もそのブランドについて熱心にアピールするそう。その姿勢はしばしば「メガネのマエストロ」とも例えられます。プロダクトだけでなく、購入するまでのプロセスまでもがサービスだという考えがよく表れています。
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同店ではメガネ以外のファッション小物も充実しています。例えばハット類。帽子ブランドより厳選して取り寄せており、メガネとハットの相性を見ながらコーディネートすることもできます。
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色とりどりのバングルはメガネフレームと同じ素材で作られており、フレームと同じ柄で揃えれば、統一感のあるおしゃれを楽しめます。
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中でも目を引くのがクリアボトルに飾られた色鮮やかなファブリック。こちらはなんとメガネ拭き。「メガネを拭く動作までスタイリッシュに」という思いから作られたもので、スカーフのように髪やバッグに巻いたりとファッション感覚で身に付けることができるスグレモノです。
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その他にもディフューザーやマグカップなど多彩な商品が販売されていますが、決して雑多な印象は受けず統一感があり、どれも訪れた人のライフスタイルを個性的に演出してくれる品揃えです。
このように見ているだけで購買意欲を刺激してくれる空間が実現されており、メガネだけが目的でなくとも訪れたくなる居心地のいい店づくりが徹底されています。
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お客さまのライフスタイルに寄り添う店舗づくりとは。
「その場で買っていただかなくてもいいんです」
「eyevory」の仕掛け人であるビジョンメガネの平野さんはそう語ります。
まずは店の佇まいに興味を持ち、気軽に来店していただくこと。そしてメガネに触れる機会をつくることを第一の目的としているため、同店では接客時に強く購入を勧めることはしません。むしろ商品の特性やストーリーについてを熱心に話し、いかにメガネがお客さまの生活に寄り添い、見た目の印象を左右するのかをアドバイスすることで、その場では購入せずにお店を出ても、後日「やっぱりほしい」と来店される方が続出するそう。「手軽さ」だけではなく、「メガネという存在への強いこだわり」と「個々のユーザーへの提案力」で売るという点でSPA企業との棲み分けがしっかりとなされています。
また、店舗の大きな特徴として「お客さまのライフスタイルに寄り添う」という点が挙げられます。トレンドや季節に合わせてシャツを着替えるように、手軽に掛け替えられるリーズナブルなものから、艶・素材・仕立てなどワンランク上の品質にこだわったもの。また、誰とも違う個性を演出してくれるエッジの効いたものまで、メガネがユーザー一人ひとりのライフスタイルの一部として楽しめる価格帯・ラインナップが取り揃えられています。単に視力を補正するためのメガネの購入ではなく、「次はあのブランドやあのデザインに挑戦してみよう」というワクワク感や選ぶ楽しさ、新しいおしゃれにチャレンジできる場である点が付加価値としてユーザーに受け入れられています。今後は従来のビジョンメガネの店舗にショップインショップという形で「eyevory」を併設する店舗展開も進めていくそう。それぞれの地域に根付き、より多くの出会いを創ることはもちろん、歴史あるビジョンメガネの“技術力のDNA”を引き継ぎ、機能的な商品の充実を図る見通しです。
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取材ノート。
ユーザー一人ひとりに合わせて吟味した製品を提案型で販売するというスタイルは、手軽で量産されたものをユーザーが自由に組み合わせるSPA企業の販売形態とはまさに正反対。一見時代に逆行しているように見えますが、「ファッション」であり「ライフスタイルの一部」としてのメガネの役割を強く意識した店づくりは、「手軽なものよりも、自分にぴったり合うこだわりの一品を買いたい」というユーザー層のニーズを的確にくみ取ることに成功しています。
モノが飽和し、何でも好きなものを選べる今。安いものをたくさん揃えれば売れるという時代は終わりました。消費者の価値観やライフスタイルがどんどん多様化していく中、小売店はユーザーをセグメント化しながら、どの層に対して仕掛けていくのかを考えなければなりません。
取材協力
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