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シェアリングエコノミーと新たなビジネスチャンスの創出

近年、ほしいものを購入するのではなく、必要なときに借りればよい、他人と共有すればよいという考えを持つ人が増え、そのニーズと、所有物を提供したい人々を引き合わせるサービスが注目を集めています。そのような市場は「シェアリングエコノミー」と呼ばれ、インターネットの普及とソーシャルメディアの発達から、かつては家族や友人といったごく近しい間柄だけで行われてきた「共有」の範囲が、地域や国、そして経済活動にまでに広がったといえます。人と共有をすることでコミュニティの利益を最大化するシステムとして、モノやサービスは「所有するもの」から「必要に応じて利用するもの」に変化しつつあるようです。
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シェアリングエコノミーとは?
シェアリングエコノミーとは、直訳すると「共有型経済」。既存のシェアリングサービスを大きくカテゴライズすると、フリーマーケット、衣服やファッション小物、玩具などモノのシェア、民泊、駐車場、リゾート施設などスペースのシェア、個人間融資、労働力などリソースのシェア、ライドシェア、カーシェアなど移動のシェアの4区分に分けることができます。
シェアリングエコノミーの草分けともいえる存在が、2008年にアメリカで開始された「Airbnb(エアービーアンドビー)」。スペースのシェアといえる同サービスは、個人が所有する空き部屋を他人に貸し出すサービスとして成長し、現在では世界192カ国、34000以上の都市で、80万以上の宿を提供しています。また、移動のシェアである「Uber(ウーバー)」など自家用車を利用した配車サービスも、アメリカを中心に利用者を増やしています。利用者がスマートフォンの専用アプリを使って、近くにいる他人の車を呼び出すと、一般人が自家用車で配車サービスを行う点が一番の特徴です。
英国大手コンサルファームPwCによると、2013年に約150億ドルだったシェアリングエコノミーの世界市場規模は、2025年には約3350億ドル規模に成長する見込みであり、日本でも急速に大きな広がりを見せるのではないかと予想されます。
現在日本でもっとも有名なシェアリングサービスのひとつに「メルカリ」などのフリーマーケットアプリがあります。「メルカリ」は「Airbnb」や「Uber」と同じく、C to Cの取引を行うためのシェア系プラットフォームですが、参加者が増えれば増えるほど加速度的にサービスの規模と価値が高まるというメリットがある反面、Web上での取引を活発にさせるには、顔の見えないユーザー同士の信頼関係が必要になるため、システムの構築やサービスの参入は決して簡単だとはいえません。
一方、カーシェアリングの「タイムズカープラス」に代表されるようなB to Cサービスであれば、ユーザーは「顔の見えない一般人」相手ではなく、「信頼できる企業」を相手として取引を行うため心理的障壁が少なく、企業側もスタートしやすい形態なのではないでしょうか。今回ミセナカジャーナルでは、実際に市場へ新規参入した企業へインタビューし、そのサービス開始の背景や運営方法について取材しました。
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メンズ時計レンタルサービス『KARITOKE』
時計のレンタルサービス「KARITOKE(カリトケ)」を運営するクローバーラボ株式会社は、モバイル端末ゲームの企画・開発を行うWebサービス企業。同社がシステム開発を担当し、グループ会社である株式会社キーザンキーザンが企画・運営するファッションレンタルサービス「leeap(リープ)」の業績好調を受け、2017年6月、男性向け時計レンタルサービス「KARITOKE」を開始することに。常務取締役の小川さん、広報担当の土橋さんにお話を伺いました。
時計は会員登録後、Web上で好きな商品を選ぶと宅配で自宅に届き、返却期限はなく、通常使用での汚損・破損による追加負担はありません。高級ブランド時計には一般的に「高くて買えない」「メンテにお金がかかる」というイメージがありますが、KARITOKEは「月額制でブランド時計が借り放題」、そして「メンテナンス不要」。プランは商品ランクによって4種類用意されており、「カジュアルプラン」が月額3980円、「スタンダードプラン」が月額6800円、「プレミアムプラン」が月額9800円、「エグゼクティブプラン」が月額1万9800円。
2018年6月で、サービス開始から1年が経ち、現在のユーザー数は約8000人。利用年代層は30代が39%で最多で、20代が28%、40代が23%、50代が8%と続きます。同社では当初最も安価なカジュアルプランの申込者が多いと予想していましたが、実際には高額なエグゼクティブプランが最も多く、「大切な商談の日」「冠婚葬祭」「記念日」のために借りるという人の他にも、「購入までのお試し」として利用される方もいるのだとか。高級品は「必要ない」のではなく、「必要になったときに用意すればいい」というものになりつつあるのでしょうか。
2017年11月から有楽町マルイ、2018年4月からなんばマルイ内に、試着ができる実店舗も設けられており、「実際に見て決めたい」「Web上のやり取りに不安がある」というユーザーもカバーしています。
サービス企画時、「leeap」の購買データを基に男性向けファッションアイテムの需要や可能性を感じていた同社は「買えないけど、借りられたらうれしいものはなにか?」と社内で協議し、時計という商材に決めたそう。
「既存サービスである『leeap』との親和性やユーザーの相互流入を目指し、これからさらにそれぞれのサービスの相乗効果を狙っていきます。今後は、時計を遊休資産として所有する人と、時計をレンタルしたい人のプラットフォーム型サービスへの展開も検討中です。今はまだ構想中ですが、将来的に『え、そんなものを?』と周囲を驚かせるような商材にチャレンジするのも面白そう。社内でシステムを開発できる強みを生かし、『市場のないところに市場を作りにいく』ベンチャー企業ならではの戦い方をしていきたい」と常務の小川さんは意気込みます。
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まとめ
これからの消費者インサイトについて
企業として新たにシェアリング市場に参入するならば、既存ビジネスとのシナジーを生み出せるような近い領域でのシェアモデルを構築したり、まだ他社が目をつけていないニッチな領域で勝負することに加え、現代の消費者の目線に合わせたトレンド感も加味することが、成功の秘訣なのではないでしょうか。「買わずに済めば助かるモノは何か?」「人々が持て余している遊休資産は何か?」常にそのようなアンテナを張ることが、人の心をつかむシェアリングサービスのきっかけになるかもしれません。
取材協力
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