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失速するドラッグストア街も想定内!?本来のエンタメ&食のテーマパークとして新たな「起点」が中座くいだおれビルに誕生!ミナミの道頓堀、水面下で着々と進む「インバウンドビジネス」の次の一手とは

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世界で「最も」観光客が増えた街、大阪。2017年には初の一千万人超!そしてキタより、食いだおれの街「ミナミ」が観光客に選ばれている、という事実
米マスターカードが2017年9月に発表した、世界の海外旅行市場に関するレポート、「Mastercard Destination Cities Index」によると、大阪は2009年から2016年にかけて、「世界で最も」海外旅行者の数の増加率が高かった街となっている。
大阪では2009年から2016年にかけて 年平均+24.0%で外国人観光客が増加し続け、これは、2009年から2016年の7年間で大阪に訪れた外国人観光客が、「約4.5倍」に増加 した計算。
しかも、2017年11月、三菱総合研究所の実態調査によると、大阪市内の難波・心斎橋エリアには、関西でもっとも多い702万人の訪日客が1年の間に足を運んでいる。これは訪日外国人旅行者全体の3割。梅田や大阪駅周辺のキタや、京都の東山エリアなどの観光名所よりも、ミナミのほうが訪日客への人気が高い上に、海外からの観光客にとっては、梅田や京都よりもミナミのほうが再訪したくなる魅力的な街と映っているようだ。
どうりでここ最近、心斎橋、ミナミの一帯は昼も夜も観光客で溢れている、という感覚になるはずである。
そんな急激なインバウンド需要に沸くミナミ一帯だが、その一方で「コト消費」に対応する、「エンターテインメントが少ない」といった課題も浮きぼりになっている。しかも、新しくオープンしたばかりのドラッグストアの人影はまばらで、以前のような業者買いと見まがうほどの山と積んだ商品をレジに持ち込む、「爆」買い、という勢いは見られない。
その一方でこの街ならではの「食」への需要はまだまだ勢いがあり、道頓堀周辺のたこ焼き屋なども行列が絶えず、千日前筋の入り口はここはアジアのどこかの国かと思うほど、金龍ラーメンも盛況だ。やはり、道頓堀はごちゃごちゃ「賑やか」なほうが似合う。
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歌舞伎から新派、新喜劇、ミュージカル、レビューなど多彩なエンターテインメントが今も劇場で楽しむことができるのもミナミならでは。
今や日本を代表する世界的な観光都市となった道頓堀。
「食」のイメージが強いが、元々は芝居町として上方芸能の中核を担ってきた。道頓堀の歴史からみれば、道頓堀五座といわれた道頓堀の弁天座・朝日座・角座・中座・浪花座(竹本座)が中心にあり、食より「エンタメ」のほうが先なのだ。道頓堀では、エンタメを存分に楽しんだ後、「食」を楽しむ流れがあり、「くいだおれ」の街として発展してきた。そんなこの街の成り立ちからしても、昔からモノ消費より、「ここでしか体験できない」コト消費、が根幹にあるといえる。
そんな本来のミナミのあるべき姿ともいえる食を含めた、コト消費=エンタメ需要に対応するための試みと今後の大阪におけるインバウンドビジネスの展望、100年先を見越した「ほんまもん」の街づくりに尽力するキーパーソンの方々に話を聞くことで、ミナミの「今」に迫ってみた。
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JTBによる、「コト消費」促進のための戦略、「道頓堀スクエア」が生まれた経緯と、今後期待されるワケ
ミナミの街全体のブランド力を高める取り組みの一環として、「中座くいだおれビル地下1階」(大阪市中央区)に6月1日、オープンした「道頓堀スクエア」。その入り口では、まいどお馴染みナニワの人気者くいだおれ太郎が出迎えてくれる。
カジノ実施法が成立し、両手を挙げてカジノ誘致に沸く大阪だが、カジノだけではなく今後のインバウンド需要に対応するためにも、観光客向けの「エンタメ」の充実は大阪にとって急務となっている。その背景はもちろん訪日外国人向けの“コト消費”のニーズが拡大増加し、「娯楽サービス費」は消費額全体の3.3%(2017年観光庁データ)となっており、消費機会の拡大の観点からもエンタメ開発への期待が大きい。
そんな中、昨年、道頓堀商店会とマネジメント契約を結ぶにあたり、元々「食」とエンタメの街としてのミナミを、さらに魅力ある街にしたい、という目的でJTBが参入。
その一環として中座くいだおれビルに今年6月オープンしたのが「道頓堀スクエア」だ。
ミナミの街を食とエンタメのテーマパークとして始動する新たな試み。その始めの一手としてのベースとなる、道頓堀スクエアの今後の展望を株式会社JTB 営業開発プロデューサーである大迫義矢氏から、道頓堀スクエア内の劇場、「道頓堀ZAZA」の話を運営元である株式会社バイタルアートボックスの今井隆彦氏から話をうかがった。
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インバウンド需要で活気づくミナミのキーパーソンに聞いたエンタメ発信の基地、道頓堀スクエアの目的と今後の展望
取材にご協力いただいた道頓堀スクエアを運営する、株式会社JTB 営業開発プロデューサーである大迫義矢氏(写真右)と、道頓堀ZAZAを運営する株式会社バイタルアートボックスの事業部プロデューサー 今井隆彦氏(写真左)
大迫:昨年、道頓堀商店街とマネジメント契約を結ぶにあたり、より多くの海外からの観光客の方々に加え、日本の方にもミナミの街の魅力を知ってほしい、元々の「食」やお笑いなどのエンタメを充実させ、ミナミ一帯をより魅力ある街にしたい、という目的でJTBが参入しました。
国内旅行の需要を狙って
海外だけでなく国内旅行の需要にも目を向け、地域資源を活かした団体旅行商品「地恵のたび」シリーズに「道頓堀」コースを新設。この企画では、主に修学旅行生向けにPRしており、これからご紹介する「GOTTA」のショーを観るだけでなく、商店街の方から直接、ミナミの歴史や成り立ちなどの話を直接聞くことで、その街の成り立ちや歴史も学べる、地域密着の「コト体験」ツアーとなっています。
さらに、近隣の学校には遠足などの需要を狙って各学校の朝礼などでもPR活動に力を入れています。
夜のエンタメの充実の試み
一方、夜の観光やエンターテインメントの充実、といった課題を解決するため、大阪の「キタ」と「ミナミ」にある10店舗のクラブに3日間出入り自由なクラブパス、OSAKA NIGHTCLUB PASSを企画開発しました。こちらは2017年9月の販売以来、おかげさまでSNSや口コミで人気が広がり、特に韓国からの若い観光客の方々から支持されています。
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3日間出入り自由なクラブパスは、男性は3,500円、女性1,000円というリーズナブルさも人気の理由となっている。
http://osakanightclubpass.com/
元々あったミナミ一帯が抱える「外国人観光客が求める店舗に辿り着けていない」「常に混雑している」、これらの課題を解消するため、多言語機能をもつインフォメーションセンターに、観光客が気軽に使えるフリースペースとしてのカフェを併設した「TONBORI BASE Cafe&Info」。ここは情報発信の「基地」としての役割と、ワンドリンクを注文すれば、周辺のたこ焼きや諸々を持ち込んでゆったり食べていただける市民や観光客含めた憩いの場としての活用を目指しています。
そして、もう一つ、大きな役割としては、ミナミならではのエンタメ促進のための劇場、「道頓堀ZAZA」の運営です。
尚、JTBは、この中座くいだおれビルの地上入り口に、表立って自社看板を出していません。やはり大阪色の濃いお土産屋さんや飲食店、そしてくいだおれ太郎の人形が表の「顔」としてふさわしい。当初の思惑としては、ニューヨークのタイムズスクエアのような、洗練されたデザインにしたい、という考えもありましたが、やはり、ここはミナミですから(笑)。
そこは街の雰囲気に合わせ、エリア特性を活かした自由度の高い憩いの場として有効活用していただくためにも街のブランドを優先しました。そして、ミナミのど真ん中にある中座くいだおれビルという立地を生かした情報を発信し、人やコトの起点となるような場所に、という思いを込めたのがここTONBORI BASEです。
この街にふさわしい、賑やかでざっくばらんなフリーなスペースとして開放することで、さまざまなPR活動の拠点、さらには情報発信の「基地」としての役割を担うことができれば。
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入り口には、英語や中国語を話せるスタッフ2名が常駐。カウンタースタッフに希望の公演を伝えれば、予約の手配からチケットの発券まで対応してくれる。併設するタッチパネル式の券売機、「Tickets Today」では、日本全国の伝統芸能やアニメなど毎日50種類ほどのエンタメチケットを購入することも可能。日本語・英語・中国語・韓国語の4カ国語に対応し、インバウンド向けの「コト消費」を促すため、全国のエンタメ情報を発信するのが目的。道頓堀を起点に日本各地へ観光客の大きな人の流れを生みだすのも狙い。
こちらは7月9日にスタートしたデジタルインフォメーションボード「トンボリグラフィー」。画面に触れるとデジタル式のパネルに道頓堀の街の歴史や周辺の飲食店の情報などが表示される。
1ドリンク購入すれば周辺のお店で購入したたこ焼きなどの持ち込みも可能な「TONBORI BASE Cafe&Info」。今後はイベントなども開催予定で、国境や文化を越えたバラエティ豊かな交流拠点としての活用が見込まれている。
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これぞミナミならではの「ごった煮」エンタメショー、懐かしくも新しい道頓堀presents フードミュージカル、「GOTTA」とは!?
たこ焼きに串カツ、ラーメンにクレープ…この面々はミナミ名物の食レポでなく、この「GOTTA」の舞台で華麗な芸を披露してくれるキャラクターたちである。道頓堀スクエア内にある道頓堀ZAZA Boxにて、まだ6月に開演スタートしたばかりとはいえ、既に「20回はきてるで!」というナニワマダムの声掛けや手拍子が熱い。舞台ならではの観客との近さと臨場感、ぐるっと270度見渡せるプロジェクションマッピングでの映像と音響がメインのため、言葉が通じない観客でも「五感で楽しめる」内容構成となっている。
この舞台を企画し、「道頓堀ZAZA」と運営する株式会社バイタルアートボックス 事業部プロデューサーの今井氏に詳しく話をうかがった。
今井:元々、道頓堀ZAZAを運営する弊社代表が昔、役者をやっていまして。ミヤコ蝶々さんのお弟子さんだったんです。ちなみに、ミヤコ蝶々さんは、ずっと中座で舞台をやっておられました。中座といえば、藤山寛美さんかミヤコ蝶々さんですから。そのご縁もあり、ここで劇場をするならば、「新しい、オリジナルの演目をやりたい」という思いがずっとあったようです。
そしてコトの発端は、この中座の跡地に立つ中座くいだおれビルから、ある外食チェーン店が立ち退く際、ドラッグストアが入居する話がありまして。
そこで元々、舞台や演劇、イベント等の仕事に関わっていた弊社の社長と当時の道頓堀商店街の会長だった「道頓堀今井」の社長の間で、このままではあかん、と。やはり本来のミナミらしさを取り戻す試み、劇場文化を絶やしてはいけないという話になったようです。
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中座くいだおれビル近くにある、大阪ミナミを代表する老舗うどん店、「道頓堀今井」。周囲と一線を画す凛とした佇まいに息をのむほど。街の発展には観光客だけでなく「地」の力、こういった老舗の存在も欠くことができない。
そしてそこから、予算的な問題も解決するためJTBさんをはじめ、いろんな方のご協力や弊社含め奔走した甲斐もあり、構想から2年かけ、ようやく今年6月にお披露目となったのが、このフードミュージカル、「GOTTA」です。
ご覧頂いたとおり、三味線弾きの唸るようなバチさばき、歌舞伎役者の伸びやかな声、元OSK日本歌劇団のスターによる華麗なラインダンス・・いずれの芸も、まさに一流。演出の先生も、日本の伝統、道頓堀の伝統芸能、演芸への造詣が深く、その上で近代的な感性でおもしろい脚本が書ける先生に依頼しました。ショーとしての完成度が高さはもちろん、ここでやるなら「ほんまもん」の芸能を、という思いから、出演者から舞台芸術、脚本家まで、本物のエンターテインメントを追求したクリエイティブの結晶です。伝統芸能である歌舞伎をはじめ、ミナミに昔から息づく「エンタメ」を一度に味見できるからこそ、45分でもなんかオモロい&楽しいで十分お腹いっぱいになる、まさに食いだおれの街にふさわしい「ごった煮」。国内外からきたお客様はもちろん、幅広い世代に楽しんでいただけるミナミらしさ溢れる「濃い」内容となっています。
今後は、アイドルや忍者ショーなど夜の公演も月替わりで上演する予定ですので、より多くの皆さんにお楽しみいただければ。
大迫:ド派手な風貌でも誤魔化しようがない、一流のエンターテイナーが揃う「GOTTA」の舞台。将来的には上海といえば上海雑技団、ニューヨークといえばブロードウェイ、といったように、ミナミに来たら「GOTTA」を観ないと!そんな道頓堀を代表するレガシー的な存在に街をあげて育てるつもりです。そして、ショーを楽しんだ後は、たこ焼きやお好み焼などここでしか味わえないものを食べ、“ああ、楽しかった!おいしかった!大満足!”という思いで、観光客の方に「またミナミに来たい!」という感想をもって帰っていただくのが一番の目的ですね。
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まとめ
かに道楽の看板を抜け、少し千日前に向かって歩くと道頓堀ZAZAが入っている中座くいだおれビルがある。
誰が呼びかけるでもなく、タイガースファンやサッカーファン、ハロウィンで仮装した人たちがどこからともなく集まってくる。不思議なほど「自然に」人が集まる、それが道頓堀という街のもつ不思議な魅力でもある。食と笑いのエンタメ&多言語機能をもつインフォメーションスペース、道頓堀スクエアはそんな背景からもふさわしい「コト消費」を促進するための、自由度が高く、可能性を秘めたミナミという街本来の「価値を発信する基地」ともいえる。
1615年の道頓堀開削から2015年に400年を迎えた道頓堀。短期的な需要にもなりかねないドラッグストアでの爆買い、華々しい看板を背景に自撮りして通りすがるだけの街ではなく、人を笑わせ喜ばせ、訪れた人の記憶やインパクトに残る唯一無二の街に。道頓堀がこの先の100年後も賑わい続け、訪れた人に喜ばれる街づくり、というビジョンが「ゴッタ煮」の中から見え隠れする。その第一歩の試みはようやく今、始まったばかりだ。今後のミナミの発展、賑やかで楽しい街づくりに期待したい。
施設データ
■道頓堀スクエア
住所:大阪府大阪市中央区道頓堀1-7-21 中座くいだおれビル B1F
1、インフォメーションセンター 「TONBORI BASE Cafe&Info」
※多言語機能をもつインフォメーションスペースと「食」のサービスの提供
運営/JTB(プロデュース:トライハードエンターテイメントジャパン)
営業時間/10:30~22:30(12/30~1/3を除く)
対応言語/日本語、英語、中国語
機能/インフォメーションスペース(食とエンターテイメントの情報提供、自治体・企業向けプロモーションコンテンツの提供)カフェスペース(ソフトドリンク、アルコールの販売、各種イベントの開催)※カフェ利用には、お一人様につき1ドリンク要購入
2、エンターテインメント劇場 「道頓堀ZAZA」
※お笑いや「食」のミュージカルが楽しめる3つの劇場。食と笑いのエンターテインメントの提供
運営/バイタルアートボックス
劇場構成:「ZAZA POCKET’S」:70席、「ZAZA HOUSE」:150席、「ZAZA Box」:100席
★「道頓堀presents フードミュージカル GOTTA」
公演日時/①11:00 ②13:00 ③15:00 (上演時間45分・火曜休演)
会場/「道頓堀ZAZA Box」(100席)
チケット料金/高校生以上2,500円、小中学生2,000円、幼児(4歳以上)1,000円
※3歳以下無料 ※税込 ※自由席 ※当日券は500円アップ
チケット販売/プレイガイド(イープラス)、旅行会社、TONBORI BASE Cafe&Info内、施設受付(券売機・当日券のみ)
公式サイト http://gotta-osaka.com/
取材協力
株式会社JTB
株式会社バイタルアートボックス
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