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【第二弾】シェアリングサービスがつくるSNS時代の「リアルなつながり」

社会学ではしばしば現代病として扱われる「つながり不安」という現象。インターネットや情報端末の高度化により、いつどこにいても、誰とでもメッセージのやり取りができるようになったことで、常に誰かとつながっていないと不安に駆られるという人が増加しています。
一方で、「つながりの希薄化」も取り沙汰されています。前述した「誰かとつながりたい」という思いは、特定の親密な友人を指す場合が多く、むしろ距離の近い隣人などに対しては「近所付き合いに縛られたくない」「関わるのが面倒」と、つながることに消極的な姿勢を示す傾向にあります。
そんな時代に、現代のニーズに即した「リアルなつながり」を実現しているコミュニティが京都市左京区にあります。
最寄りの出町柳駅から、高野川沿いに10分ほど北上すると見えてくるレトロなアパート「リバーサイドハイツ」。廊下を進み、105号室のドアを開けると、居住スペースであるはずのそこは、なんとカフェでした。
しかも、一般的なカフェとは大きく異なる点が、このたった1つの店舗に日替わりで21もの店が展開され、週に1度だけ場所を借りて店を開くという独特の営業スタイル。各店長による自由なアイデアによる店づくりと、彼らのコネクション、そしてそれらを求めてやってくる客による、決して縛らず、それでいてゆるく関わり合うというコミュニティ。その不思議で現代的なつながり形態についてお話を伺いました。
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タイムシェアカフェ「RIVER SIDE CAFE」
「これからのアパートには、コミュニティが必要だ」
そんな当時の運営会社の思いから、1階の居住スペースを改装しオープンされた「RIVER SIDE CAFE」。アパートの住人を増やすための施策として企画されたこのお店の最もユニークな点は、その営業形態です。週7日、朝・昼・夜の合計21枠を別々の店長に割り当て、各々が週に1度全くコンセプトの異なったお店を営業するという「店舗の時間貸し」、いわばタイムシェアカフェ。火曜日の朝はお粥屋さん、金曜日の昼はカレー屋さんというように、訪れるたびに新しい出会いがあることが特徴です。
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アパート玄関口 カフェの看板が置かれている
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アパート裏口 こちらからの入店も可能
今回お話を伺ったリバーサイドカフェ管理人の持木さんは、カフェの企画立ち上げ当初から関わった発起人の一人。スタートから現在について、こう振り返ります。
「リバーサイドカフェは、2016年1月27日にオープンしました。まずは知り合いのつてから店長を探し、8店舗からスタート。広告を打ち出すことなく口コミで情報が広がっていき、これまで約2年半にわたり、60店舗以上の入店と卒業を見届けました」。
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「店長のパーソナリティはさまざまで、ほとんどがほかに本職を持っている人ばかりです。21歳から75歳、職業も年齢も国籍もそれぞれ違い、『飲食店経営の準備期間に』『趣味が高じて』『楽しくおしゃべりができる空間を持ちたい』など、お店を開きたい理由や背景も全く異なっています。」
店内に設置されている黒板には、曜日ごとの開店予定がぎっしりと記されており、さまざまなコンセプトのお店が参加していることが一目で分かります。店長になるためには管理人の持木さんとの面談が必要になりますが、経験や資格、年齢は不問なのだそう。
「カフェがある左京区という地域では昔から手づくり市が活発であったことから、『こだわり』や『手づくり』のマインドが息づいている町です。このカフェでは、お話しをしてみてカフェの雰囲気やポリシーとマッチする方であれば、店長の年齢も目的も問いません。『食材・アイデア・行動力』この3つさえあれば、少ない費用でお店を持つことができます。その創意工夫のしがいがある自由な環境が地域性にマッチしていることも、成功要因の一つなのかもしれません」。
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持木さん自身も水曜日の夜枠で、故郷である長﨑県の五島うどんと焼酎のお店「五島BAR」の店長をしています。自らコミュニティに参加することで、カフェのリアルタイムな雰囲気や、出入りする人々の空気感をつかめるのは大きなポイントなのでしょう。
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本職は僧侶。水曜朝はカフェの店長。
今回伺った水曜日の朝枠「dj’z cafe」の店長、小峰さんの本職は意外にもお寺の僧侶。お店を開こうと決めた経緯について、こう語ります。
「本来お寺は地域の方が集い、日々の悩みなどを打ち明け対話する場所です。しかし、時代の移り変わりとともに少しずつ役割や立ち位置が変わってきてしまい、今ではお寺は気軽に訪れることのできる場所ではなくなりつつあります」。
「そんな中で『お寺の外で人と関わる場をつくりたい』と思ったことがこのお店をオープンすることになったきっかけです。実際にカフェのマスターではなく、僧侶としての自分を求めて来店してくれたお客さんもいて、お寺以外で対話ができる場所を持てたことをとてもうれしく思いました。このカフェを足掛かりとして、これからさまざまな対話の場の形を模索していくつもりです」。
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取材ノート:シェアリングサービスがつくる現代的なつながり
持木さんによると、カフェがオープンしてからリバーサイドハイツの入居者は3割ほど増加したといいます。1階のカフェをコミュニティとして、近隣との交流が持てる「顔の見えるアパート」であることや、「リビングのように使えるカフェがある暮らし」が注目を集めています。週に1度という肩肘張らない関係や、その時々で顔ぶれが変わる気軽さが、現代人が求める近所付き合いにマッチしているのでしょう。また、訪れる人を大らかに受け入れる空気感や、誰かと話したいときにふらりと立ち寄れるカジュアルさもまた、このカフェの魅力だと感じました。カフェを貸す側、借りる側だけをとると非常に狭い範囲のビジネスですが、限られたスペースで21種類ものお店、そこに集まる客数を考えると一店舗では実現できない効率のいいビジネスモデルでもあると感じます。
今回ミセナカジャーナル編集部はシェアリングサービスのビジネスモデルについて調査するべく取材へ伺いましたが、現代のコミュニティのあり方について考えさせられました。各地で起こる災害も記憶に新しい中、私たちは今後、人といかにつながっていくかを考え、さらに新しい形を試行錯誤していく段階にあるのかもしれません。
取材協力
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